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札幌地方裁判所 昭和61年(行ウ)5号 判決 1988年5月09日

江別市西野幌三四一番地

原告

岩田勝

右訴訟代理人弁護士

廣谷陸男

札幌市東区北一六条東四丁目

被告

札幌北税務署長

中島昭男

右指定代理人部付検事

坂井満

同訴務官

佐藤雅勝

同大倉事務官

斎藤昭三

西谷英二

主文

一  被告が昭和五九年六月一九日付で原告の昭和五七年分の所得税についてした更正処分及び過少申告加算税賦課決定中、被告が昭和五九年一一月一七日付でした原告の右年分所得税の減額再更正処分及び過少申告加算税再賦課決定によつて取り消された部分の取消請求に関する部分につき、いずれも本件訴えを却下する。

二  その余の部分に関する原告の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告の請求の趣旨

1  被告が昭和五九年六月一九日付で原告の昭和五七年分所得税についてした更正処分及び過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告の本案前の答弁

1  被告が昭和五九年六月一日付で原告の昭和五七年分の所得税についてした更正処分及び過少加算税賦課決定中、被告が昭和五九年一一月一七日付でした原告の右年分所得税の減額再更正処分及び過少申告加算税再賦課決定によつて取り消された部分の取消請求に関する部分につき、いずれも本件訴えを却下する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

三  請求の趣旨に対する被告の答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  本件処分の経緯等

原告は、農業を営む白色申告者(所得税法一四三条による青色申告の承認を受けていない居住者)であるが、昭和五七年分の所得税について原告のした確定申告、これに対する被告の更正及び過少申告加算税の賦課決定(以下右更正を「本件更正」と、右過少申告加算税の賦課決定を「本件決定」という。)、再更正及び過少申告加算税再賦課決定の経緯は、別表記載のとおりであり、原告は国税不服審判所長に審査請求をしたところ、国税不服審判所長は昭和六〇年一二月二七日付でこれを棄却する旨の裁決をなし、原告は昭和六一年二月二八日に右裁決書の送達を受けた。

2  本件処分の違法事由

しかしながら、被告がした本件更正のうち、原告の確定申告に係る所得金額を超える部分は、原告の所得を過大に認定したものであるから違法であり、したがつてまた、本件更正を前提としてなされた本件決定も違法である。

3  よつて、原告は、本件更正及び本件決定の取消を求める。

二  被告の本案前の申立の理由

被告は、別表記載のとおり、昭和五九年一一月一七日、原告の納付すべき税額を一八二万四七〇〇円から一六七万九九〇〇円へと一四万四八〇〇円減額する減額再更正処分及び過少申告加算税の額を七万六〇〇〇円から六万九〇〇〇円へと七〇〇〇円減額する再賦課決定を行つた。原告の確定申告による納付すべき税額は二九万六七〇〇円であり、一六七万九九〇〇円からこれを差し引いた一三八万三二〇〇円を超える部分については右減額再更正処分によつてすでに取り消されているわけであつて、原告にはその取消を求める法律上の利益がない。また、過少申告加算税額についても六万九〇〇〇円を越える部分は右再賦課決定によつてすでに取り消されているわけであつて、原告にはその取消を求める法律上の利益がない。

三  請求原因に対する被告の認否

請求原因第1項の事実は認めるが、同第2項の主張は争う。

四  被告の抗弁

1  原告は、昭和五三年三月四日、南照雄(以下「南」という。)との間において、同人所有の江別市元野幌七八三番所在の畑の内六〇〇坪を代金一一〇〇万円で買い受ける旨の売買契約書を作成し、その旨の売買契約を締結した。

そして、原告は、同年六月二一日、南とともに、江別市農業委員会に対し、江別市元野幌七八三番五所在畑一〇八六平方メートル及び同番七所在畑八九七平方メートルの合計一九八三平方メートルの土地(以下「本件各土地」という。)につき、農地法三条の規定による権利移転の許可申請をなし、同年七月三日右許可を受け、同年八月二九日、南から本件各土地の所有権移転登記を受けた。

原告は、右売買代金として、野幌協同組合の南名義の預金口座に同年三月八日に二〇〇万円、同年九月六日に九〇〇万円を振り込んで支払つた。

2  原告は、昭和五七年二月二四日、菊田茂二(以下「菊田」という。)との間において、本件各土地を売り渡す旨の売買契約書を作成して、売買契約を締結した。

原告は、それに先立つ昭和五六年一二月一九日に、後日に締結する売買契約の代金の一部とする趣旨で菊田から二五〇万円を受領し、右契約締結後、昭和五七年二月二四日に五〇万円、同年一〇月二二日に一三一九万五九五〇円の合計一六一九万五九五〇円を代金として受領した。

その後、同年九月一八日、本件各土地につき、同年一〇月二五日に原告から菊田の転売先である旭川ガス株式会社(昭和五七年一月の吸収合併以前の商号は江別ガス株式会社)に所有権移転登記がなされた。

3  原告は、確定申告において、右一六一九万五九五〇円と一一〇〇万円との差額五一九万五九五〇円のうち一八万円を譲渡所得として申告したのみで、その余については申告せず、昭和五七年一〇月二二日に受領した一三一九万五九五〇円の内二四九万五九五〇円については雑所得として申告した。

しかし、原告は、昭和五三年三月に南から本件各土地を一一〇〇万円で買い受け、これを一六一九万五九五〇円で菊田に売却したものであるから、原告が本件各土地を菊田に譲渡したことにより取得した一六一九万五九五〇円は譲渡所得にかかる収入金額であり、これから必要経費を控除すると、別表記載のとおりであり、これから必要経費を控除すると、別表記載のとおり分離短期譲渡所得は四八三万三二七四円であり、他方雑所得は零である。そこで、被告は、これによつて納付すべき税額を計算して本件更正をなしたものであるから、減額更正によつて減額されたところの本件更正は適法であり、これを前提とする本件決定も適法である。

五  抗弁に対する原告の認否並びに主張

1  被告の主張1の事実のうち、原告が被告主張の日に南との間において被告主張の内容の売買契約書を作成したこと、原告が被告主張の日に許可申請をなし、その許可を受け、その主張の日に所有権移転登記を受けたこと、原告が被告主張の預金口座にその主張の日に主張の金員を振り込んだことは認めるが、原告が南から本件各土地を買い受け、売買代金として支払つたことの事実は否認する。

同2の事実のうち、原告が被告主張の日に菊田との間において被告主張の内容の売買契約書を作成したこと、原告が被告主張の日に菊田から被告主張の金員を受領したこと、本件各土地につき被告主張の日に主張の許可がなされ、被告主張の日に主張の所有権移転登記がなされたことは認めるが、原告が菊田に本件各土地を売り渡したとの事実、原告が売買代金として受領したとの事実は否認する。

同3の主張は争う。

2  本件更正及び本件決定は、以下のとおり事実誤認に基づくものである。

(一) 原告は、菊田から、昭和五二ないし五三年ころ、屋外ゴルフ練習場の事業用地とする目的で、本件各土地の田江別市元野幌七八三番四畑一九八三平方メートル(以下「七八三番四の土地」という。)及び同番六畑九九一平方メートル(以下「七八三番六」という。)の二筆の土地(以下、これら四筆の土地を合わせ「本件全体土地」という。)を購入するための資金の融通と買受名義人となることを要請された。

菊田が代表取締役を務める株式会社原始林観光は、これに先立つ昭和四八年一〇月三一日、南から本件全体土地に隣接する土地を買い受けていた。これらの南の所有地は、もともとは農地であつたが、表土をレンガないし焼き物用の原料として売却してしまつて農地には不適の状態となつており、右原始林観光株式会社の買い受けた土地は、農業委員会が非農地と認めたものであつた。ところが、農業委員会は、その余の南の所有地については、表土の復元を命じ、地目の変更を認めなかつた。そこで、本件全体土地を入手したいと考えた菊田は、農地法の制限により農業を営んでいない菊田自身が買受名義人にはなれないことと購入資金がなかつたことから、幼なじみで農業を営む原告に前記のとおり資金の融通と形式上買受名義人となることを要請したのである。

(二) 原告は、これに応じることとしたが、本件全体土地全部の購入代金の融通は無理だつたので、本件各土地についてだけその購入資金として一一〇〇万円を、利息年一一パーセント、期間二年の約定で貸付けた。本件各土地と同一面積の七八三番四の土地については、原告が知人の高橋弘志同様の条件で菊田の依頼を引き受けることになり、七八三番六の土地については金内哲夫(以下「金内」という。)が菊田の依頼を引き受けることとなつたのである。

(三) 菊田は、こうして原告らから資金を借り受けて、南から本件全体土地を同時に購入し、本件各土地については、これを原告の右貸金債権の担保とする趣旨で、農地取得資格を有する原告を買受名義人として、昭和五三年八月二九日付で原告名義に所有権移転登記をなし、七八三番四の土地については同様の趣旨で高橋に所有権移転登記をした。

原告と高橋は、右売買代金として、南に対し、昭和五三年三月八日に手付金二〇〇万円を、所有権移転登記を受けた後の同年九月六日に残金九〇〇万円をそれぞれ支払つた。

(四) 原告と高橋は、右のとおり所有権移転登記手続を受けてから残金を支払うまでの昭和五三年八月三〇日から同年九月五日までのころ、菊田との約束内容を明確にしておくため、菊田と三名で浅野善迪司法書士の事務所に出向き、菊田との間において、それぞれ同じ内容の念書を作成した。

原告と菊田との間の念書(以下「本件念書」という。)の記載は、

「一、岩田勝は昭和五三年三月四日南照雄より後記不動産を金壱千百万円で買受けたが、実質的には菊田茂二の代りに(後日菊田茂二が買取ることの条件で)買受けたものである。

二、したがつて、菊田茂二は岩田勝より後記不動産を昭和五五年三月四日までに右売買金額に諸経費を加算した額で買取るものとする。ただし、菊田茂二は岩田勝に対し、右買取るまでの期間に対する金利相当分として右売買金額に対し、年一割一分の割合による金員を支払うものとする。」

というものであり、菊田が原告から本件各土地の買受名義人を借りた事実(第一項)、菊田が原告から右土地購入のために借り入れた金員の返済条件及び利息の約束(第二項)を確認したものとなつている。なお、右念書は昭和五三年三月四日となつているが、これは浅野司法書士が契約年月日に近付けて記載したものである。

(五) 菊田は、その後数年間約束利息の支払をしなかつたが、昭和五六年十二月十九日、原告及び高橋に対してそれぞれ右借入金の利息として二五〇万円の支払をなした。その後、菊田は、昭和五七年二月二十四日、原告に要請して、本件各土地につき菊田を権利者とする所有権移転仮登記をなし、その際に原告に対して元金として五〇万円の支払をなした。

菊田は、昭和五七年一〇月二二日、原告、高橋及び金内の名義で購入した本件全体土地を一括して旭川ガスに転売し、右同日、原告及び高橋に対し、元金として一〇五〇万円、利息として二四九万五九五〇円、固定資産税等の支払分として経費名目で二〇万円をそれぞれ支払つた。

これにより、原告は、菊田から最終的に元金一一〇〇万円全額と利息として合計九九万五九五〇円の支払を受けたものである。

(六) 右のとおり、原告は、菊田に対し、一一〇〇万円を本件各土地の購入資金として貸し付けたものであつて、菊田から受領した一六一九万五九五〇円のうち四九九万五九五〇円は右貸付金の利息であるから雑所得に該当するものであり、譲渡所得に該当するという被告の主張は失当である。

3  原告にとつて、右四九九万五九五〇円の収入を利息として雑所得とみた場合と、譲渡所得とみた場合とで、いずれが有利であるかは一概には言えない。原告のその他の課税所得が一定額以上あるかどうかによつて、計算上有利とも不利ともなる性質のものである。本件において、被告は、たまたま当該年度の原告の農業所得が赤字であつたために、これを利息として雑所得とみるよりも、譲渡所得と認定して課税した方が所得税をより多額徴収できると判断して、本件更正及び本件決定をしたものと疑われる。課税においては、疑わしきは被課税者にとつて有利な認定、解釈を採ることが原則というべきであり、ある収入が事実認定のうえでいずれの所得に係るものであるか判然と識別し難いとか、あるいは双方の性質を具有するとみられるような場合に、課税行政庁が結果として徴税額が多額になる方法を恣意的に選択したならば、その決定は違法というべきであり、このような見地からみても本件更正は違法である。

4  以上のとおり、本件更正は違法であり、これに基づく本件決定も違法である。

第三当事者の提出、採用した証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

第一本案前の判断

原告が昭和五七年分の所得税についてした確定申告、これに対する被告の本件更正及びは本件決定並びに更正及び過少申告加算税再賦課決定の経緯が別表記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

右のとおり、被告は、昭和五九年一一月一七日付で、原告の納付すべき税額を一八二万四七〇〇円から一六七万九九〇〇円へと一四万四八〇〇円減額する減額再更正及び過少申告加算税の額を七万六〇〇〇円から六万九〇〇〇円へと七〇〇〇円減額する再賦課決定を行つたものであり、原告の確定申告に基づき算定した納付すべき税額は二九万六七〇〇円であつて、一六七万九九〇〇円からこれを差し引いた一三八万三二〇〇円を越える部分についてはすでに右再更正によつて取り消されているものということができ、過少申告加算税額についても六万九〇〇〇円を越える部分はすでに右再賦課決定によつて取り消されているものということができるから、原告の本件訴えのうち、昭和五九年一一月一七日付再更正及び再賦課決定によりすでに取り消された部分の取消を求める部分については、その法律上の利益を欠くものとして却下すべきものである。

第二本案についての判断

一  請求原因第1項の事実(本件処分の経緯等)については、当事者間に争いがない。

二  被告は、原告は昭和五三年三月四日に南から本件各土地を一一〇〇万円で買い受け、これを一六一九万五九五〇円で菊田に売却し、昭和五六年末から昭和五七年にかけてその代金を菊田から受領したものであるから、その差額五一九万五九五〇円は譲渡所得(正確には右差額から譲渡費用を控除したもの)であると主張するのに対して、原告は、菊田に対し一一〇〇万円を本件各土地の購入資金として貸し付けたものであつて、菊田から受領した一六一九万五九五〇円のうち四九九万五九五〇円は右貸付金の利息であるから雑所得であると主張するので、この点について検討する。

1  成立に争いのない甲第二ないし第五号証、甲第九号証、乙第二ないし第五号証の一・二、原告本人尋問の結果によつて真正に成立したものと認める甲第六号証、甲第七号証の一ないし四、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認める甲第八号証の一ないし四、甲第一〇号証、証人菊田茂二の証言及び原告本人尋問の結果を総合すると、以下のような経過が認められ、以下の認定を左右するに足る証拠はない。

(一) 菊田が代表取締役を務める株式会社原始林観光は、昭和四八、九年ころ、南が所有していた本件全体土地に隣接する土地を買い受け、これを昭和五二年ころ、江別ガスに売却した。その後、南は、本件全体土地(約一五〇〇坪)も売却しようとして菊田に話を持ち掛け、菊田もこれも購入しようとして南と交渉をもち、坪あたり二万円という話になつたが、菊田には全体で約三〇〇〇万円となることからこれを購入するだけの資金がなく、また、本件全体土地が農地として扱われていたため、農地法三条の規制により所有権移転のためには農業委員会の許可が必要であり、農業を営んでいない菊田が買い受けたのではこの許可を受けにくいという問題があつた。

(二) 原告は、菊田から以上の話をきいたものの、その当時、所有地の一部を売却した代金が入つてくる予定があつたが、本件全体土地全部を購入するだけの資金はなかつたので、六〇〇坪分についてだけ引き受けることとした。そして、原告は知人の高橋に依頼し、高橋も原告と同一条件でこれを引き受けることになつた。菊田は、残りの約三〇〇坪については、知人の金内に話をして引き受けてもらつた。

(三) 菊田は、南と交渉をもつたなかで、本件全体土地の価格を三〇〇〇万円以内とするということまでは合意していたが、それ以上各土地の価格についての合意はしていなかつたところ、これを受けて、原告と南は、昭和五三年三月四日、両者立ち会いのうえで、南を売主とし、原告を買主として、江別市元野幌七八三番の内六〇〇坪を南が一一〇〇万円で原告に売り渡す旨の土地売買契約書を作成した(この契約書作成の事実は当事者間に争いがない。)。高橋も右同日、南との間において、右と同様の土地売買契約書を作成した。

原告と南は、同年六月二一日付で、江別市農業委員会に対して、農地法三条の規定による農地所有権の移転許可の申請書を提出し、同年七月三日、江別市農業委員会から右申請に対する許可を受けた(この事実は当事者間に争いがない。)。右同日、七八三番四の土地については南から高橋へ、七八三番六の土地については南から金内へ、それぞれ農地所有権移転の許可がなされた。

原告は、同年八月二九日、本件各土地につき、南から同年七月三日付売買を原因とする所有権移転登記を受けた(この事実は当事者間に争いがない。)。右同日、高橋は七八三番四の土地につき、金内は七八三番六の土地につき、南から同年七月三日付売買を原因とする所有権移転登記を受けた。

原告は、同年三月八日に野幌農業協同組合の南名義の預金口座に二〇〇万円を、同年九月六日に同口座に九〇〇万円を振り込んで右売買代金を南に支払い(この事実は当事者間に争いがない。)、高橋もそのころ南に売買代金を支払つた。

(四) 原告及び高橋は、右売買代金を支払つた後、昭和五三年九月ころ、菊田とともに三名で浅野司法書士の事務所を訪ね、浅野司法書士に念書を起案してもらい、原告と菊田は本件各土地についての本件念書に、高橋と菊池は七八三番四の土地についての本件念書と同一内容の念書に、それぞれ捺印をして、これを作成した。その際、原告らは、右念書の作成日付を南との間で売買契約を締結した昭和五三年三月四日としておいた。

(五) 菊田は、その後、本件念書に記載された昭和五五年三月四日までに約束を実行できなかつた。原告及び高橋は、昭和五六年には冷水害のために農業収入が減少したこともあつて、菊田に約束の実行を強く督促し、早く土地を買い取るよう、あるいは金利分だけでも支払うよう求めたところ、菊田は、同年一二月一九日、二五〇万円を原告及び高橋にそれぞれ支払つた。その際の原告が作成した領収書には、内訳として「元野幌七八三の五の土地代の金利として」と記載されており、高橋が作成した領収書にも同旨の記載がなされている。

原告は、昭和五七年二月二四日、菊田との間において、原告が本件各土地を菊田に一一二〇万円で売り渡す旨の売買契約書を作成し、右同日、菊田から五〇万円を受領した。右契約書には、菊田が契約成立と同時に内金として五〇万円を原告に支払つた旨記載されており、受領の際に原告が記載した領収書には「元野幌七八三番地の土地代の内金として」と記載されている。そして、原告及び菊田は、翌二五日、本件各土地につき、同月二四日売買予約を原因とし、菊田を権利者とする所有権移転請求権仮登記をした。

(六) 旭川ガスは、かねてから本件全体土地を購入したいとする意向を有していたが、昭和五七年六月ころに至り、同業他社が購入しようとしているという話が持ち上がつたことから、本件全体土地を購入する計画を具体化しようとして、登記簿の記載から所有者と認められた原告、高橋及び金内と接触したところ、菊田が所有者であると聞き、菊田との間で売買の交渉をして、同年七月ころ一応の合意に達した。こうして、菊田は、同年一〇月二二日、旭川ガスとの間において、本件全体土地を菊田が五九二二万八〇〇〇円で旭川ガスに売り渡す旨の売買契約を締結し、右契約の特約条項として、本件全体土地の登記名義人は原告、高橋及び金内であるが、実質的所有者は菊田であり、所有権移転登記の方法については、中間省略登記により直接買主たる旭川ガスに移転することを異義なく承諾する旨を約定した。

菊田は、右同日、旭川ガスより代金の支払を受け、原告及び高橋に対し、それぞれ一三一九万五九五〇円を支払つた。そのうちの一〇五〇万円は原告が南から本件各土地を買い受けた際に支払つた売買代金の残額に相当するものであり、二〇万円は原告が南から本件各土地を買い受けた際に支出した登記料や印紙、税金代という趣旨であり、二四九万五九五〇円は原告が南に支払つた売買代金額に対する昭和五七年四月末までの年一割一分の割合による金員であつた。原告は、受領の際に二通の領収書を作成しており、一通は一〇七〇万円の領収書で「元野幌七八三の五土地代として」と記載され、もう一通は二四九万五九五〇円の領収書で「元野幌七八三の五土地代金利として」と記載されている。

そして、原告は、同月二五日、旭川ガス対して、本件各土地につき、同月二二日売買を原因とする所有権移転登記をした。

2  南から本件各土地を買い受けたのが原告であるか菊田であるかについて検討すると、この点につき、証人菊田茂二は、「金利をつけるから」本件土地を「買つておいてくれ」と原告に依頼したものであるとも、原告から金を借りて自ら買い取つたものであるとも証言し、原告も原告本人尋問において同じような供述をしている。

しかしながら、1(一)で認定したとおり、本件全体土地は農地として扱われていたため、農地法三条の規制により所有権移転のためには農業委員会の許可が必要であり、農業を営んでいない菊田が本件全体土地を買い受けたのでは農業委員会の許可を受けにくいという問題があつたのであり、農業委員会の許可がない限り所有権移転の効力は発生しないのであるから、菊田が本件全体土地購入資金を他から借り入れて見ずらかこれを購入したのでは結局所有権を取得しえず、所有権を取得しえない以上はこれに担保権を設定することもできないという事情があつたわけである。そうした事情のもと、1(三)で認定したとおり、原告は、菊田からの話をきいて、昭和五三年三月四日、自ら立ち会つたうえで、南を売主とし、原告を買主として、江別市元野幌七八三番の内六〇〇坪を南が一一〇〇万円で原告に売り渡す旨の土地売買契約書を作成したのであつて、しかも、菊田は、南と交渉をもつたなかで本件全体土地の価格を三〇〇〇万円以内とするということまでは合意していたが、それ以上本件各土地の価格についての合意まではしていなかつたのであるから、一一〇〇万円というその売買代金額についても原告が自ら南と交渉して合意したものと認められ、原告は右売買代金を自ら南の預金口座に振り込んで支払つてもいるのであるから、かかる事実に照らし考えれば、菊田が売買契約を締結したものとはみることに到底できず、原告自身が南と売買契約を締結し、本件各土地を買い受けたものということができる。

先に認定した事実に照らし、本件念書の記載を素直にみれば、第一項は、原告が南から本件各土地を一一〇〇万円で買い受けたが、それは菊田が自ら買い受けることができないために、後日菊田が買い取るという条件でとりあえず菊田の代りに買い受けたものであることを確認したもの、第二項は、菊田が二年後の昭和五五年三月四日までに原告から本件各土地を買い取ることを確認するとともに、買い取りの際に、売買価格の一一〇〇万円に諸経費を加算した額を支払うほか原告が取得する差益として、買い取りまでの期間に対する金利相当分として一一〇〇万円に対する年一割一分の割合による金員を支払うという買い取りの際に支払う額についての条件を確認したものと解されるから、本件念書からも原告が南から本件各土地を買い受けたものであることは明らかであつて、結局、原告としては、本件各土地を南から買い受け、二年以内に菊田に右条件で買い取つてもらえば、右の差益を得ることができ、一一〇〇万円を金利一割一分で菊田に貸したのと同じ経済的利益を得ることができることから、菊田の話に応じたものとみることができる。

3  次に、原告が南から買い受けた本件各土地を菊田に売却したかについて検討する。

まず、2で認定のとおり、原告は、本件各土地を南から買い受けてその所有権を取得し、原告と菊田との間では二年以内に本件念書に記載されている条件で本件各土地を菊田が買い取ることが約束されていたのである。

そして、1で認定のとおり、菊田は、原告との間で、昭和五七年二月二四日に代金を一一二〇万円として売買契約書を作成しているが、これは本件念書の第二項で買い取りの際に売買価格の一一〇〇万円に諸経費を加算した額を支払うとしていることに従つたものと認められ、又、菊田は、原告に対し、昭和五六年一二月一九日に二五〇万を支払い、同年一〇月二二日には一三一九万五九五〇円を支払い、これを受領した原告が前記のような「土地代として」という領収書と「土地金利として」という領収書を作成しているのは、本件念書の第二項の内容に従つたものと認められる。

してみれば、菊田は、結局、本件念書に記載されている原告との間の約束を履行し、原告から本件各土地を買い受け、買い取りの際の支払額についての条件に従つて原告に合計一六一九万五九五〇円を支払つたものということができるのであつて、右金員は本件各土地の売買の対価とみることができる。菊田は、原告との間において本件各土地についての売買契約が成立していない昭和五六年一二月一九日に原告に二五〇万円を支払つているが、これは、1(五)で認定のとおり、菊田が約束の期限までに本件の土地を買い取ることができず、原告らから早く本件の土地を買い取るよう強く督促され、金利分だけでも支払うよう求められたことから、近いうちに約束を実行し、本件の土地を買い取ることを前提として、本件念書第二項の買い取りの際の支払額についての条件に従つて支払つたものであり、昭和五七年二月二四日には原告との間で本件各土地につき売買契約を締結しているのであるから、昭和五六年一二月一九日に授受された二五〇万円も右売買対価とみて差し支えないものというべきである。

4  以上のとおりであるから、原告は、南から本件各土地を一一〇〇万円で買い受けて、菊田に一六一九万五九五〇円で売却したものということができる。

三  したがつて、原告が本件各土地の譲渡により菊田から受領した一六一九万五九五〇円は原告の譲渡所得にかかる収入金額と認められ、本件更正にあたり被告がかかる認定のもとに譲渡所得の金額を算出したことは正当であり、必要経費の金額については、原告は明らかに争わないから、原告の昭和五七年分の譲渡所得は四八三万三二七四円、雑所得は零と認めることができる。そして、再更正によつて減額された後のその余の所得金額については、原告は明らかにこれを争わないから、再更正によつて減額されたところの本件更正は適法なものということができる。

四  次に本件決定について判断すると、本件決定の前提である本件更正が適法であることは右のとおりである。また、本件更正により納付すべき税額の計算の基礎となつた事実が、本件更正前の計算の基礎とされていなかつたことについて、国税通則法六五条四項に規定する正当な理由があることを認めるに足りる証拠もないから、同条一項に基づき過少申告加算税を賦課決定した本件決定は適法である。

五  よつて、訴えのうち、第一において判断した請求に関する部分は、訴えの利益を欠くから、いずれも不適法としてこれを却下し、その余の部分に関する原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 福永政彦 裁判官山本博及び裁判官峯俊之は、転補につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 福永政彦)

別表

昭和57年分課税等状況一覧表

<省略>

(注)1.△は損失の金額を示す。

2.「確定申告」欄の総所得金額は、損益通算をした後の金額である。

3.「再更正及び変更決定」欄の分離短期譲渡所得の金額の上段(ヘ)は損益通算をする前の金額及び下段(ト)は損益通算をした後の金額である。

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